国際ロータリー第2580地区 東京武蔵野中央ロータリークラブ 今週の卓話

「コンピューターは感性を計算できるか」(2015/3/5)

「コンピューターは感性を計算できるか」(2015/3/5)
日本将棋連盟 青野照市さん(東京RC)
(紹介 柳原克哉会員)



 私は静岡県焼津市の出身で15歳の時に上京し、プロの養成機関である奨励会に入って、21歳でプロ棋士(四段)となりました。ただし今日では、中学卒業後に奨励会に入っても、99%棋士になれないと言われています。
 その修行時代や、棋士のエピソードも面白いかとも思いますが、今回は視点を変え、将棋を文化として、またコンピューターとの思考の違いというテーマでお話したいと思います。
 棋士というと、過去の指し手をすべて覚えている、計算で先を読むという、コンピューター的頭脳の持ち主のように思われがちですが、実は違います。
 将棋界では学校の成績は抜群ながら、全く勝てずに辞めた人が多くいます。その人たちの共通点は「大局観」という、物事を大局から見る目や、危機を早くから「感じる力」が不足していたように思いました。将棋に感じる力が必要な訳は、その生い立ちに原因がある気がします。
 将棋の起源はインドで、西に行ったのがチェス、東に来たのが将棋の類です。古い将棋の中には象や猛牛、虎などがあることから、東南アジア、海のシルクロードを伝わったとされています。
 現代の将棋はシンプルな代わりに取った駒を再使用できるという、世界に一つも例のないルールにより、チェスよりはるかに複雑なゲームとなっています。
 戦後このルールを知ったGHQが、プロの升田九段を呼んで、「お前の国の将棋は、捕虜まで戦争に駆り出すのか」と言ったのに対し、「あなたの国の将棋こそ、敵は殺すだけじゃないか。我々は仲間となって戦うんだ。」とやりかえしたそうです。日本の戦争は、敵将さえいなくなれば、領民や農地は見方にすることから、こういうゲームになったと考えられます。
 また1対1で戦いなおかつ速度で勝敗を決める競技はオリンピックにはほとんどなく、日本の剣道や柔道と同じです。このジャンルに共通するのは、自分の技量を磨くだけでなく、相手との距離感、間合いを計るという技術が必要で、ここに将棋も感性や大局観を必要とする要素があるのです。
 「プロは何手先まで読むのですか」と聞かれ「縦に読んで15手から20手」と答える人もいれば、「第一感で正解を見つけるから、いかに読まないかがプロの芸」と答える人もいます。この第一感や一流の感覚を身につけるには、早くプロの世界に入るのが肝心で、今や小学校で入らないと手遅れの時代です。今考えると、子供のころから本物を見続けることにより、右脳が正しい筋を感じ取るのだと思っています。
 この感性と読みの世界に、コンピューターが挑戦しています。昭和40年代から開発されて今やプロに近い実力となり、詰将棋では10年前に数分かかった問題を、市販のソフトが1秒で解く時代になりました。
 ただし実戦は詰将棋と違って、最終盤以外は正解がありません。たとえば自分の手の可能性が80手、相手の手が65手とすると、2手後にすでに5千通りの局面があり、4手先には2500万通りの局面が存在することになります。これだと先ほどの縦に15手読むと、天文学的数字になります。
 プロは正しい道、つまり「幸せロード」と「デビルロード」の違いを第一感で見つけ、その手が正しいかどうかを読みで確かめるのです。この話をある経営者の方に話をしたら、「それは経営も同じですよ」と言われたことがありました。
 コンピューターに学習能力を持たせてから、将棋の実力が飛躍的に上がったとされています。最近のプロにも勝ち越すコンピューターは、1秒間に700万手、繋げれば2億手読むそうですが、最終盤はともかく、それ以前は計算で答えは出せません。それでもプロ顔負けの手が編み出せる今日、コンピューターそのものがいかに進歩し、感性の世界に近づいたかの証拠でしょう。
 しかし逆に考えてみれば、そのコンピューターと互角に戦える人間(棋士ということでなく)の頭脳と感性は、いかに素晴らしいかとも言えます。私達は将棋を子供たちに教えていくことにより、頭脳育成に役立てればと思っています。
 国や大学の機関で研究をしている人に聞くと、コンピューターに人間の持つ能力を持たせるのに、将棋を強くするというのが一番役立つのだそうです。そうなれば、例えば大災害があった時に、最優先がどれで、どういう順番でやっていくのが最も早い復興につながるか、コンピューター(人口知能)が計算してくれる時代になるということです。
 私の最後の目標は純粋な日本文化である将棋を、ユネスコの世界文化遺産に登録できないか。また2020年おオリンピックにもし、マインド部門の競技が行われるなら、将棋を競技の一つに加えられないかと考えています。どちらもハードルはかなり高いと思いますが、その方面に詳しい方がいらっしゃれば、お知恵を拝借できると幸いです。


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